東京高等裁判所 昭和29年(う)5号 判決
被告人 李永満
〔抄 録〕
控訴趣意第一について。
原審第一回公判調書中の証人鈴木賢一、同第二回公判調書中の証人宮内けい及び鈴木賢一(第二回)同第三回公判調書中の証人鈴木栄子の各供述記載、当審における証人鈴木賢一、同針谷文則及び同鈴木栄子の各供述及び宮内けい及び被告人の各任意提出書並びに被告人の司法警察員に対する第一回供述調書中の供述記載を総合すれば、昭和二十八年五月二十八日被告人は判示宮内けい方(寿屋遊技場)において偽玉(寿屋で使用している玉と異なる玉)を使用してパチンコをなしたこと、被告人が寿屋に持参した偽玉は少くとも百八十八個(被告人が所持しておつて後に警察へ提出したもの四十三個と寿屋において被告人が使用した機械の後から出たもの百四十五個の合計)であつて、被告人は寿屋に持参した偽玉のうち少くとも百四十五個を使用したこと、寿屋において被告人が打ち出した寿屋の玉は三百三個(被告人が警察へ提出したもの二百三個、被告人が打ち出したまま機械のある場所に置いていたもの百個の合計)であることを認めることができるから、被告人は判示の日判示の場所において偽玉を使用してパチンコをなし、寿屋の玉三百三個を打ち出してこれを窃取したものであるといわなければならない。所論は被告人は当日寿屋において五十円にて玉二十五個を買い求めこれを使用して玉を打ち出した旨主張し、被告人も亦原審公判廷においてこれと同旨の陳述をなしているが、原審第三回公判調書中の証人鈴木栄子の供述記載並びに当審における同証人の証言によれば当日被告人が寿屋で玉を買つた事実があるとは認め難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。しかし仮りに所論の如く被告人が二十五個の玉を買いこれを使用したとするも、前記認定の如く被告人は当日偽玉を百八十八個を所持しその中百四十五個を使用しているのであるから、被告人の打ち出した玉合計三百三個のうち何個が正当な玉によつて打ち出されたものか、何個が偽玉によるものであるかは記録上区別することは全然不可能である。かかる場合には全部の玉を全体として観察する外なく、そして偽玉と正当な玉との比率は百四十五個に対し二十五個であるから、かくの如き比率から見て殆んど全部が偽玉によるものといつても差支えないような場合には打ち出された玉も大部分が偽玉によつたものと見るのを相当とする(最高裁判所第三小法廷昭和二十九年四月二十七日判決判例集八巻四号五四七頁趣旨参照)から、被告人が窃取したとする三百三個の玉のうち若干のものが正当の玉により打ち出されたものとするもそれは僅かであつて、これがため被告人の窃盗罪の成否並びにその情状の消長を及ぼすものではない。その他記録を調査するも原判決の採証、認定には何ら条理、実験則に反するものはなく、又所論の如き審理不尽、理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。